意識の高い資本主義|良いことをして上手く行く

Photo Courtesy Whole Foods
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By Bryan Welch

John Mackey は資本主義の伝導師。他に説明しようがない。

 Mackeyは資本主義が世界を救えると信じている。実際、すでにある程度まで実現していると思っている。

 彼の新しい本『Conscious Capitalism: Liberating the Heroic Spirit of Business 【意識の高い資本主義:ビジネスの英雄的精神を解き放つ】』において、Mackeyはこう主張している――もし私たちが市場経済の「英雄的」可能性を信じるならば、市場経済はほとんどの人為的な問題を解決できる。彼の使命は、人々に英雄的な可能性というものが存在していると信じさせることだ。

 一介のビジネスマンが救世主となるようで不愉快に聞こえるかもしれないが、まあ、それがMackeyのスタイルなのだろう。彼は、従来の行き過ぎた資本主義( 隷従、環境破壊、土着の文化の根絶、無分別な拡張といったこと)をさらっと流している。キリスト教徒が、スペインの異端審問15世紀にスペイン王が政治利用した(暗黒と評される)宗教裁判】を、権力が人間のどんな努力をも台無しにする例として、受け流すのと同じやり方だ。

 だから十分に妥当だ。

 しかし、資本主義の記録を振り返ると、Mackeyと同様にあなたも、社会的責任のある事業は世の中に大いに善行をほどこす力を持っていると信じるようになるかもしれない。

 1978年、Mackeyと彼の友人の一人はSafer Wayという小さな健康食

品の店をテキサス州オースティンに開いた。彼らは店舗の上階の事務所で寝泊まりし、店にある立ち入り可能な大型食洗機で「シャワー」を浴びた。月給は約200ドル。2年後、彼らはその小さな店を改名し、Whole Foods Market と名付けた。

 今日では、Whole Foods Marketは三つの国で340以上の店舗を持つ。健康食品に特化した小売業者の筆頭であり、Mackeyは依然としてその実権を握っている。昨年の健康食品の売り上げは約120億ドル相当に及んだ。従業員は7万人を超え、雑誌Fortuneの「働くならこの会社ベスト100」に連続15年選ばれた。

 しかし、Mackeyの伝道活動から、個人的な成功体験をはるかに越えたところで、感化される。

 『Conscious Capitalism』において、Mackeyと共著者のRaj Sisodiaは、資本主義は人間の協同を組織化するのに、歴史上最も効果的な手段であるという説得力ある主張をしている。彼らの考えによれば、過去200余年における数多の劇的な生活改善は、うまく経営されている事業によってなされたものだという。彼らは資本主義のシステム ―― 競争市場における自発的な取引―― が、人間の生活の質を目覚ましく発展させたと主張している。

Mackeyの本からいくつか例を挙げる。

・ 今から2世紀前には、世界の人口の85%は極貧状態にあったが(11ドル未満の稼ぎ:地域と物価上昇を加味)、現在ではそのような悲惨な状態にあるのは世界人口の16%に過ぎない。

・ この200年間で、世界の平均寿命は約30年から68年に延びた。

・ 過去たった40年の間に、世界の栄養不良の人々の割合は26%から13%に減った。同時期の急速な人口増加にも関わらず。

・ 世界の識字率は1800年にはひと桁だったとみられている。今日では、世界の成人の84%が文字を読める。

・ 人類の約53%が真の民主主義体制のうちに暮らしている。わずか120年前には、名ばかりの民主主義が女性や少数民族の参政権を否定していた。

 MackeySisodiaは、これらの改善を、市場経済と資本主義経済(自発的な価値の交換を作り出し、技術革新に応じて市場を開放する二つの原理原則)に立ち返って見出している。好機を得れば、人は独学し、事業を始め、自分たちのコミュニティーをより良いものにして行く。企業は消費者の力を認め、効率よく競争するために生産工程と製品を改善していかなくてはならない。中央集権社会は既存権力基盤を守ろうとしがちだが、対照的に、開かれた市場を持つ資本主義社会は適応を促し創造性を育む。

 強い社会とは自由な市場のうえに築かれるというのがMackeySisodiaの考えである。もちろん、彼らの考え方を聞き入れるには、近代の西洋における強い社会の定義(民主的、裕福、革新的)を受け入れなくてはならない。あなたの定義と一致するのなら、彼らの主張は説得力のあるものだ。

 しかし、「英雄的」資本主義者の役割を納得して演ずるのは難しい。有益な情報を小出しにする著者の主張には説教臭さが漂っているし、地道で良心的な事業を擁護する他の人々を度外視している。著者たちが称賛する事業は(彼らが従事しているものも含め)、ほとんど完璧に近く描かれており、それによってこの本の信用性が損なわれている。それらの事業も経営者も、この本にもっともらしく描かれているほど輝いてはいない。それでもなお、このテーマに関しては今のところ最も重要な本であり、おそらく、最も成功したものになりそうだ。

 この本の終わりまでに、多くの読者が資本主義の持つ「英雄的」偉業の可能性を確信するようになるだろう。たとえ引用されている特定の事例については疑念を抱いていても。

 私たちは、資本主義がもたらす恩恵の、特に輝かしい例をいくつか思いつくことができる。今あなたが手に持っている雑誌は、資本主義があなたにもたらしたものだ。JohnJane shuttleworth夫妻が1970年にマザーアースニューズを始めた時、彼らはあなたのような読者からのお金に頼っていた。彼らは読者にとって価値あるものを生み出す必要があった。マザーアースニューズはそれ以来浮きつ沈みつしてきたが、今、市場経済のおかげで力強く成長している。

 支え続けてくれている読者に感謝しています。

 私たちは依然として読者に頼っており、うまく運営されている市場経済が必要だ。近年は幸運だった。私たちは過去数年間に北米で最も急成長した雑誌の一つだ。

 成長の理由の一つは、他のメディアが衰退し、雑誌売場と読者の予定にマザーアースニューズの場所を空けて

くれたことだ。自由市場は私たちにとって望ましいものだった。

 もちろん、資本主義の可能性を阻害する力も働いている。この本にも以下のように述べられている。

・ 資本主義は初期に「ハイジャックされた」。事業は株主の自己利益(目先の利益)のためだけにつくられていると考える人々によって。そのような利益の概念は、「狭量で、利己的かつ不適切」なものだと著者は言っている。結果として、いわゆる「資本主義者」は世の中に大いに害を与えてきた。共同体にも、個人にも、自然環境に対しても。Mackey とSisodiaは、事業の関係者すべてを利するという、より大きなゴールを提唱している。株主だけでなく、従業員や地域社会、顧客や供給業者も含めている。彼らの考えでは、地域社会を含む関係者すべてにとって価値あるものにならなければ、事業は成功していると言えないのである。

・ 腐敗した資本主義への対応として、行政は事業を規制し課税しているが、これは逆効果を招く方法Mackeyによれば、規制は技術革新と競争を妨げる一方、巨大な既存企業に利益をもたらす。この本では、この強力な行政と大企業との「いかがわしい」連合を、「縁故資本主義crony capitalism」として、権力屋が「大多数の良き生活よりも、少数のための狭量で利己的な権益を優先している」として弾劾している。官僚と縁故資本主義者は、政府の威圧的な力を、他の人々が享受していない既得利権を保護するために使う。威圧的な力とは、えこひいきし競争相手を妨害する規制、市場参入を妨げる法律、そして政府承認カルテル(企業連合)である。」

 対照的に、パタゴニア、UPS、メドトロニック【心臓ペースメーカーなどの医療機器メーカー】、そしてもちろんWhole Foods Marketといった会社は、ライバル会社よりはるかに優れており、活動の過程でより健全な環境や共同体を作りだし、関係者に富を与えているとMackeyは言う。経済のほとんどすべての部門において、新しいモデルを取り入れている事業があるこれらの事業は社会に貢献するよう設計されてい――株主のためだけでなく、彼らの活動によって影響を受けるすべての人のために。その過程で、事業はもっと儲かる経済活動になるのだ。「誠実さ」は競争上も有利であるらしい(「誠実さ」と呼ぶことにする。「意識の高さ」では一般的に、敷居が低く思えるからだ)。

 誠実さの優位性を強調するために、MackeySisodiaは、Sisodiaの以前の著書「Firms of Endearment: How World-Class Companies Profit From Passion and Purpose 【親愛の企業:世界規模の企業はいかにして情熱と志から利益を得るか】」 から28の企業をとりあげ、従来型のライバル会社と比較している。彼らがどのようにその28社を描いているかは以下の通り

・ 「第一に、それらの企業は『株主への還元を最大にすること』をゴールに据えてはいない。第二に、これらの企業のほとんどは構成員に充分に給料を払い、気前よく利益を与えているということ・・・第三に、これらの企業は他の大多数の企業よりもはるかに高い税率の税金を納めているということ。第四に、ここに選んだ企業は最低価格を維持するために下請け業者を締めあげたりせず、下請け業者は革新的かつ収益率が高い。」

 では彼らの利益はどうだろうか15年以上の期間にわたって、親愛の企業は配当金を株主に還元しており、SP500 【株価指数 S&P500 に含まれるアメリカの代表的な500社】 の他の企業の還元の10倍以上の額。言い換えれば、彼らは平均的な会社よりも10倍も良い投資をしたの。素晴らしい!

 Mackeyの本は、なぜ誠実な事業が儲かるかを、以下のように列挙している。

・ 消費者は尊敬する会社の製品やサービスに惹きつけられる。

・ 下請け業者を尊重し適正な支払いをする企業は、より信頼できる革新的な協力者を生み出し、支えている。

・ 真に誠実な企業はマーケティングにおいて経費を浮かしている。行為によって、どんな会社かおのずと伝わるからである。

・ 高尚な信念を持つ企業は、正直で勤勉で簡単に辞めない従業員を惹きつける。

 親愛の企業のリストには、BMW、スターバックス、サウスウェスト航空、LLビーン、そしてグーグルが含まれている。私たちはそのリストに私たちの友人である ベン&ジェリーズ StonyfieldOrganic ValleySeventh GenerationEileen FisherCLIF barといった企業を付け加える。さらに、Bコーポレーション仲間の模範企業でもあるダンスコKing Arthur FlourIndigenous DesignMethod ProductsSungevityを付け加えたい。また、Bob’s Red Mil Deltec Homes Country Home Products Eden Foods といった企業も秀逸な提携者として注目に値する。これらの企業はすべてマザーアースニューズ強力にサポートしてくれている。

 『Conscious Capitalism』は、誠実な事業にとって最も重要な条件、つまり受けいれる環境を記述しそびれてはいないだろうか。消費者は、注意して正確な会社情報にアクセスし、自分の信条に沿って買い物をすべきだ。事業家でも著作者でもなく、消費者こそが、誠実な企業の成功の要である。

 Mackeyは誠実な資本主義を「より良い勝ち方」と呼んでいる。

 『Conscious Capitalism: Liberating the Heroic Spirit of Business 【意識の高い資本主義:ビジネスの英雄的精神を解き放つ】』は、その着眼点を事実に基づいて上手にまとめているだろうか?確かに、ある程度は。だが、根底にある前提は真実と思えてきた。前提は、消費者が良心的な企業を好めば、資本主義は善良な人々に報いるということだ。

 

マザーアースニューズ発行者の Bryan Welch Ogden Publications 【米国カンザス州の出版社】 を運営している。同社は、Mother Earth LivingUtne ReaderGritなど、他にもいくつかメディアブランドを所有しており、持続可能性、自然と健康、田舎暮らしに特化している。また、同社は、B Corp の認定を受けており、環境に優しい企業として、多数の賞を受賞している。Welch の受賞歴のある著書「Beautiful and Abundant: Building the World We Want 【美しく豊かな:欲しい世界をつくる】」は2010年の出版。

 

Conscious Capitalism: Doing Well by Doing Good

By Bryan Welch 

April/May 2013