発酵食で健康と風味を

人類は、何世紀もの間、食料保存のために発酵を利用してきた。今日では、発酵で、食品の栄養価が高まることも知られている。

プロのチーズは好きですか?間違いなく、読者のみなさんは、手製のワイン、素晴らしい全粒パンを楽しんできたことだろう。チーズ、ビール、ワイン、パンは、全て発酵食品 ― 他にも様々な食品がある。発酵食品は様々な目的に役立つもので、何千年も前に発見された。1つは機能的なもの:発酵で食品を保存する。他の目的としては、食品の風味を増したり、変えたりすることだ。見て分かるものでは無いが、発酵食品は健康に良い。以下は、この大昔からの技術に関する記事で、世界屈指の発酵専門家である Sandor Katz によるものだ。 ― マザー

発酵食品と発酵飲料は、文字どおり風味と栄養の点で、生きていて案外一般的かもしれない。寝かせた食物の風味は、強くて、はっきりしている傾向がある。ツンとした臭いの熟成チーズ、ピリッとしたザウアークラウト、栄養豊かで素朴な味噌、滑らか抜群なワインなどを考えると分かる。人類は常に、微小な細菌や菌による風味を称賛してきた。

 発酵の大きな利点のひとつは、食品を保持すること。生きている培養の酵母や細菌が、アルコール、乳酸、酢酸を生成し、これらの「生きた防腐剤」は全て、栄養を維持し、腐敗を防ぐ。野菜、果物、ミルク、魚や肉は、非常に腐り易く、私たちの祖先は、食物を保存するために発見したどんな技術でも ― 自然発酵も含めて ― 利用した

 発酵は、栄養素を保持するだけでなく、栄養素をより容易に消化出来るへ分解する。大豆は好例だ。この抜群にタンパク質が豊富な食物は、発酵させないと概ね消化出来ない。発酵させると、大豆の複合的なタンパク質は、容易に消化出来るアミノ酸に分解される。発酵大豆で、伝統的なアジアの熟成食物を得られる。例えば、味噌、テンペ【インドネシア発祥の大豆発酵食品 】、たまり(醤油)これらは現代の西洋のベジタリアン料理で主に使われる。(豆腐は、発酵ではないが、生成法により消化し易くなる。)

 発酵プロセスは、また、新たな栄養素を創り出す。生きた培養菌の中には、細胞から出る「フリーラジカル」として知られるガンの素活性酸素排除する抗酸化機能を発揮してきたものもある。発酵はまた、食物から毒素を取り除く。生鮮、発酵食物を食べるのは、とても健康的な習慣で、食品を分解して栄養素を消化吸収する基本要素である生きた培養菌を消化器官へ直接提供することになる。

 

培養菌の理論

 DIY発酵は、経験と発見の旅だ。発酵の度に、違った結果となる。内容物だけでなく、環境、季節、温度、湿度、その他の要素にも影響される。これらの要素は、その活動で発酵を起こす微生物 ― ミクロな家畜だと思って下さい ― の振る舞いに影響する。

 発酵は、一般的に準備や作業は少なくて済む。使う時間のほとんどは、待つのに費やす時間だ。自家発酵はファーストフードぐらい手軽だ。多くの生きた培養菌の食物は、長く寝かせるほど、良くなる。これを機会に、目に見えないほど小さな集合体の魔法のような活動を観察し、思いを巡らそう

つぼがブクブクし始めると、いつでも私はワクワクする。命たちが自己の存在を知らしめているのだ。10年の経験があっても、時には、計画どおりに事が進まない場合もある:ワインが酸っぱくなり、酵母が消耗し、昆虫が熟成中のつぼを荒らし回る。

  私たちが求める風味を出す有機体にとって、ただ熱すぎたり、寒すぎたりすることもある。私たちは、移り気な命たちを扱って(時には長い時間に渡る場合もある)、望ましい結果のために、お好みの条件を創る努力をしている。どんなやり方をしても、完全にはコントロールできないと分かるほど、良くやっている。ただ念頭におくべきことは、表彰を受けているサンフランシスコのパン種の培養菌や見事なカビのチーズは、誰かのキッチンや農家での何年も前の自然発酵に由来しているということだ。

 「完全は不完全の中にある」というのが、私の人生のマントラだ。莫大な分解力を持つが、いくぶん気まぐれに振る舞う小さな生き物と喜んで協働したいなら、先へどうぞ。

 

発酵乳製品

 ヨーグルトほど健康に良いことが認められている発酵食品は他に無い。おそらく、読者のみなさんは、ヨーグルトの有名な乳酸菌の組織体の内のアシドフィルス菌(acidophilus)、ブルガリア菌(bulgaricus)など、いくつか知っているだろう。このような乳酸菌は、腸内環境を向上することで知られ、よくプロバイオティクスサプリとして販促されている。私好みの楽しみ方は辛口のセイボリーだが、多くの人は甘くして消費している。

 チーズ作りには、多くのバラエティーがある。ミルクが、固いチェダーチーズ、とろとろのカマンベールチーズ、カビの生えたブルーチーズ、更に、柔らかいチーズ(Velveeta)に変わり得る。ある特定のチーズは、特定の微生物と温度で、特定の農場で草を食べる特定の動物のミルクから、特定の環境下で寝かせて、作るものだ。

 Tara は、ケフィア(コーカサス山脈原産)として広く知られる発酵食品のチベット版だ。ケフィアと Tara は、発酵に関わる組織体と発酵手法の点で、ヨーグルトと区別される。ケフィア と Tara は、発酵後に漉して除かれ、再利用される「粒子」 ― 凝乳に見える酵母と細菌のコロニー ― から作られる。

 参考: 「How to Make Your Own Yogurt, Kefir and Chevrehttp://goo.gl/YkpbW

 

野菜の発酵

 発酵野菜は、どんな料理にも合う。ピリッとした風味で他の食べ物にアクセントをつけて、料理を清め、消化をすすめる。私は、毎日、何らかの発酵野菜を食べるのが好きだ。半時間かけて細かく切り刻めば、発酵させ何週間も食べられるつぼが満杯になる。バラエティーに富んだ何種類もの発酵食品のつぼを置いておこう。とても簡単だ。

 

 キャベツその他のアブラナ属の野菜(チンゲンサイ、ブロッコリー、芽キャベツ、コラード、カリフラワー、ケール、マスタード他多数)は、抗ガン性の栄養素が豊かな食品として長い間認識されてきた。Journal of Agricultural and Food Chemistry に掲載されたフィンランドの研究によれば、発酵によりキャベツ内のグルコシノレートが分解されて、イソチオシアナートと呼ばれる成分(ガンと闘うことで知られる)に変わる。他の野菜は、よく乳酸菌発酵で漬け物になる:ニンジン、キュウリ、ペッパーその他は、乳酸塩水の中で発酵できる。

参考:「Food Preservation Techniques:Learn How to Pickle」 http://goo.gl/Ljr8b、「Got Cabbage? Make Sauerkraut!」 http://goo.gl/GMGXa

 

パン

 西洋文化では、パンは生活の糧と同義語だ。これが、俗語に反映されていて、お金は「練り粉」や「パン」と呼ばれる。また、祈りの言葉の中にもある:「我らの日用の糧を今日も与えたまえ 」。

 酵母は、パン作りで使われ、練り粉を膨らませる。酵母は菌だ。パン作りで主に使われるタイプは、「Saccharomyces cerevisia」として分類されるもので、saccharo は砂糖を意味し、myces は菌を意味する。また、cerevisia は、ビールのスペイン語 cerveza を考えると、分かる気がするだろう。ビールを作るのと同じ酵母でパンが作られる。作るプロセスは両者とも、中東の肥沃な三日月地帯の穀物農業で同時多発的に開発された。ビールからパンを作れる。また、パンからビールを作れる。両者において、酵母は、勝手知ったる根本的なことをする:炭水化物を消費してアルコールと二酸化炭素に分解する。パンにおいては、二酸化炭素が重要な生成物だ。

 市販の酵母が広く利用できるようになる以前は、人々が多数ある手法のいずれかを使って、酵母を繁殖させた。繁殖は単純で、使用の都度洗わずに、同じ容器を繰り返し使うだけ。多くの場合、パン屋は、「発酵種」として発酵バターや練り粉を少し保管している。発酵種は、一生涯維持され、世代に渡って受け継がれる。

 参考:「Sourdough Recipes」http://goo.gl/wC4rs

 

ワインとビール

 生きた培養菌のアルコール飲料は、ほぼどこにでもあるが、ある種の混乱がある。20世紀に入り、多くの民族誌学者が、発酵飲料は「未開の」人々の間では見つからなかったという考えを広めた。これは全く真実では無い。

 異なる地域、異なる民族間で習慣が変わるが、アメリカの原住民の多くは、ほぼ間違いなく発酵飲料を楽しんでいた。ヨーロッパ人の到来以前には経験しなかったアルコールは、蒸溜酒で、発酵アルコールより何倍も強くて危険だ。

 多くの文化の中で、伝統的なアルコールを作り消費することは、一般的原則として、共同体的で儀式的だった。ある文化においては、騒々しい儀礼を創り、酵母の働きをより効率良くする手助けと信じて、興奮状態の(怒りでさえ含む)エネルギーを生み出した。また他の文化では ― 発酵は平和と静寂を要し、音や動きに恐れおののくとう考えを持つ ― 発酵過程を静粛に取り組んだ。いずれの場合でも、背景にあるのは、儀式的で神聖なものだった。(詳細は 「Sacred and Herbal Healing Beers Stephen Harrod Buhner 著を参照80ページで利用可) 

食物と砂糖 ― 果物と果物ジュース ― は、原生酵母があれば自然と発酵してワインになる。

しかしながら、穀物は、自然発生的にアルコールへ発酵せず、ハチミツと水あるいは果物ジュースのようにかない。ビール作りは、ワイン作りより複雑だ。発酵の間に大量のアルコールを生成する穀物にとって、でんぷん(複合炭水化物)が、まず最初に糖(単純糖質)へ変換されなければならない。

そうさせる標準的な手法は、「モルティング」と呼ばれ、穀物の発芽や成長を意味する。他には、カビの活動を介する手法がある。甘酒(日本の甘い米発酵飲料)は、ニホンコウジカビというカビと一緒に醸した米からできる。酒(日本の米ワイン)は、甘酒を酵母と一緒に発酵させて作る。

  穀物は、発酵して液状に変えることもできる ― ビールのようなアルコール醸造だけでなく、様々な酸性の飲料にもなる。テネシー州の私の住む場所で、初期に住んでいたチェロキー族は、gv-no-he-nv (“v”は “but”の“u”のように発音する)と呼ばれる酸っぱいトウモロコシ飲料を飲んでいた。発酵の最初の一週間ほどは、この濃くて、ミルクのような飲み物は、トウモロコシの甘い風味を持ち、ほのかな酸味が感じられアクセントになっている。数週間寝かせた後、gv-no-he-nv は、強い、ほぼチーズのような風味になる。

  参考: 「How to Make Beer, Cider, Wine, Cordial, Soft Drinks and Other Beverages【ビール、サイダー、ワイン、リキュール酒、ソフトドリンク、その他の飲料の作り方】」  

 

  アルコール酵素は、もし、空気と触れたままにすると、必然的に、酢酸菌属のバクテリアと好気性酵母(Mycoderma aceti と呼ばれ、アルコールを消費して酢酸に変換する)の生息場所になる。 酢は、ワイン作りに失敗した時の素晴らしい慰めだ。それ自体に防腐作用があり、料理で美味しい使い道がたくさんあり、健康的だ。

  酢のタイプは、一般的に、酢を作るアルコール原料で区別する。ワイン酢はワインから作られる; アップルサイダー酢はアップルサイダーから; 米酢は日本酒から; モルト酢はビールなどの穀物酒から。安くて、最も一般的な酢 ― 蒸留白酢 ― は、穀物から作られるが、モルト酢の特徴である風味と色が欠けていて、実際、主な「価値」は、色が無く風味が無いところだ。


Choose Fermented Foods for Health and Flavor

By Sandor Katz 

August/September 2013


 

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