緑の革命の隠れたマイナス面

緑の革命による園芸の変化で、工業的な農業は、従来以上のカロリーを提供している。だが、作り出された食物内の(鉄分など人体に少量必要な)微量栄養素が欠乏して、病気が広まる原因となっている。

この数10年間にわたる、持続可能な農業は世界を養えるかという国際的な切迫した議論が、誤った仮定のために破綻してしまった。私たちは緑の革命の不自然な理論によって欺かれ、20世紀は灌漑と豊富な肥料に依存した生産量の多い品種の米、小麦、トウモロコシへ移行した。私たちは作物の生産高のみに注目するという誤りを犯したが、この方程式にはもっと多くの要素がある。
  インドの地方は工業的な農業の問題を調べるのに良い場所。貧しい農家は長い間緑の革命が言う奇跡の作物を勧められて来たが、多くの人は「いらない」と言った。このような話は奇跡の品種を世界中に広めることを課せられている畜産家や農学者の広いネットワークの中でも多く聞かれ、貧しい農家が政府の命令に従って「新たな改良された品種」を植える代わりに、彼らの宝物である在来品種の米を栽培させてほしいと泣いて頼むのだという。なぜ貧しい農家はこれらの「恩恵」を拒否するのか。

問題の根源
  猿が出没するインドのバンガロールに近い研究所に勤務する遺伝子操作専門の農学者H.E..シャシダール(H.E. Shashidhar)はこの問題を調査し、実際に多くの答えを得た。それらの答えは持続可能性について考え直すのに役立つ。シャシダールは水を引かずに陸稲を栽培している農家に対して、なぜ45倍もの収量がある科学的に最良な品種ではなく在来品種を栽培し続けるのか、徹底的な質問をした。無知なのか。俗信に頼るのか。
  ひとつには、農家が言うには、在来品種のほうが味が良い。しかし子供たちが飢えている場合に味とは何なのか。味については多くの事が判明したが、しばらく保留しておこう。ここに明確な点がある。つまり、奇跡の品種は実際に多くの年で生産量が多い。ところが繊細でひどい日照りの年は収穫が全くない。もし家に腹を減らした子供がたくさんいる場合、5年に1度飢饉に見舞われるよりも、少しでも毎年頼りになる作物のほうが良い。無知なのか。いや、地域の現実に基づいた冷静な計算で、これは、シャダールを再考させ、悩ませた。

  それなら両方栽培してはどうか。在来品種と新品種を掛けあわせて生産量の多い、日照りに強い在来品種の味の新品種を交配したらどうか。
  すぐ立ち直るために、インドだけでなく世界中の乾燥する地域では、作物は干ばつに強くなければならず、深いところの水に届くための長い根を必要とする。在来品種は実際長い根を持っている。新品種は持っておらず、茎が短い。緑の革命とはまさにそれなのだ。つまり小型の植物だ。私たちは肥料、殺虫剤、灌漑、単作が問題だと考えるが、すべては小型化に由来する。茎に行く栄養を少なく栽培することでより多くの栄養が穀粒に行く。さらに短い植物は肥料と水で膨らんで重くなった種子を支えるための構造が必要になる。
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世紀半ばの大量飢餓を未然に防いだ奇跡は(まさにこれが良い面だと述べたいが)、米と小麦の小型化だった。そこでシャシダールが必要としたものは短い茎と長い根をもつ米で、その栽培に着手した。彼は遺伝子マーカーを追跡して研究を進めたが、それは遺伝子工学ではなく従来のふつうの栽培方法だった。しかし彼の遺伝子マーカーのおかげで問題の核心を発見した。つまり、短い茎と長い根を持つ米は作れないということで、なぜならば両者の特徴はひとつの遺伝子でひとつの特徴となるよう制御されているからだ。長い茎と長い根か、短い茎と短い根だ。つまり世界中で数世代にわたって短い茎、短い根の植物を食べていたことになり、これは人間にも植物にも予想外の結果をもたらした。

「成功」の評価
  生産量を押し上げた緑の革命の大きな成功は実際、主にトウモロコシ、小麦、米の3つの植物で成し遂げられた。「成功」とは人間の栄養素の約4分の3がこれら3つの植物のみで得られるという意味だ。それらが世界中の炭水化物食品を作っている。世界中の、特に都会の貧しい人々の大部分は12,000キロカロリーの南半球の産物で生活しており、それらはわずかなオートミール粥か米と少々の油だ。多くの人々がこんな質素な食糧をなんとか得ている一方、世界中の高級ホテルで農業経済学者の会議が開催されてお互いを賞賛し、データが素早く提示される。農家が世界を養ってきたというデータがパワーポイントでテキバキ示される。面積当たりの生産高、掛ける耕地面積、掛ける重量当たりのカロリー、割る人口。それが書かれている。

  貧困はもはや飢餓だけが特色ではない。貧しい人が太っているのは合衆国や他の先進国でも明らかだ。これらは別問題だ。先進国の食糧の流通を途上国のように炭水化物過多の穀物主体だと分析する人はいないだろう。先進国では粥ではないが、生産過程で着色料や香料で偽装された粥であることに変わりはない。その粥は砂糖に変えられ、2型糖尿病、心臓病、高血圧、うつ病などの一連の病気を引き起す。
  この不適切なカロリーはある意味で新しいことではなく、1万年にわたって続いてきた。数世紀にわたって「文明病」に焦点を当てた一連の考察が行われ、人類は大きな危機に直面して農業を選択したのだという。農業とは初めから炭水化物であり、炭水化物過多による病気も当初から見られた。しかしこれらの病気は緑の革命以降倍増している。
  ビル、メリンダ・ゲーツ財団(The Bill & Melinda Gates Foundation)はシアトルにある健康評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation)による大規模で前例のない研究を支援している。「世界の病苦」("The Global Burden of Disease")と題する研究で死亡、衰弱、生活の質の低下の原因について187カ国で291種類の病気を調査している。はじめの研究結果は2012年にランセット誌(Lancet)に掲載され、世界の健康問題のトップ、つまり最悪の病気は「工業的な農業の問題」に由来する何らかの慣習から発生していることが明らかになった。世界の最悪の健康問題は、要約すると文明病である。

  この冷静な研究は持続可能性の問題の核心を突いており、土地、生物、地球が工業的な農業に耐えられるかどうか問うている。同様に緊急の問題は人類が耐えられるかどうかだ。

味、長い根、そしてあなたの脳
  健康問題に対する炭水化物へのあるべき批判の出現は何を食べているかに焦点を当て、何を食べていないかを忘れていることによって重要な点を見失っているが、それは根に立ち返らせてくれる。米農家が在来品種の味が好きだとシャシダール博士に言ったときに、根と生命のために大切なことを語っていた。小型化の遺伝子のように味と根は表裏一体なのだ。植物は深い根によってミネラルを多く含む下層土に届くことができ、豊富なミネラルは食べ物の味と色に現れ、それを食べた人の完全な栄養状態に現れる。数世代にわたって世界はずっと以前からミネラルを使い果した表層土までしか根を張れない短い植物を食べてきた。
  インドの農家の在来品種を好む味覚は文化的な例外ではなく、人類の進化や種としてのルールである。古代ヨーロッパの湿地帯の人類の死骸の胃から採取したものから1日に数10種類の植物を食べていた証拠が示され、伝統的な狩猟収集家である遊牧民が広い範囲を歩き回り、実にたくさんの種、根、果実を集めていたことがわかる。さらに言えば、農業以前の人類は肉を食べていた。人類が食べていた動物も広い範囲を歩き回り、深い根の多年草を食べており、それゆえ微量栄養素と呼ぶ一連のミネラルを蓄えていた。これらの行動は人間の健康状態にとって重要なことだ。私たちの脳や身体は他の生物よりはるかに複雑で、複雑な細胞間のネットワークが必要となり、それらは膨大な数のたんぱく質、脂質、ミネラルなどの身体物質を供給する複雑な生化学によって支えられている。人類は潜在能力、とくに脳の潜在能力を実現するための品種が必要で、それらを探し出すための好みである味覚を進化させた。味覚には適応性がある。完全な微量栄養素を確実に得るために、それらを供給してくれる品種を探す本能的欲求を神経化学的な報酬と結びつけて進化した。皮肉なことに、それを乱用して炭水化物の塊を膨らませて食物として偽造している食品加工業者、市場関係者、包装業者以外には誰もよくこのことを理解していない。

 

供給過剰、しかし栄養不良

  工業的農業が行われることで、多様性が私たちから奪われた結果は重大だ。よいニュースは、この問題が緑の革命を実施したいくつかの機関によって検討されてきたことだ。例えば、国連食糧農業機関(FAO)は今、カロリーが足りず、栄養素や微量栄養素が不足した食事として定義している「隠れた飢餓」に、人類の3分の1が苦しんでいると伝えている。鉄分欠乏からの貧血、ヨウ素欠乏からの甲状腺腫、重度のビタミンA欠乏症からの失明は、最悪の問題としてリストに上がっている。すなわち、ゆうに人類の3分の1が、もっぱら私たちが食物を育てる方法によって衰弱した結果、失明や脳障害を被っているのだ。さらに14億人が炭水化物を採りすぎ他のすべてが不足した食事が原因で太りすぎている。クワシオルコル【栄養失調の一形態】および消耗症 ― タンパク質の不足に起因する目に見える発育阻害やだるさに特徴がある ― が蔓延しているのは、いまだに必要最低限の炭水化物を摂取できていない結果であり、この2つは世界の貧しい地域で流行している。

 ビタミンB12、ヨウ素、マグネシウム、コレステロール(そう、コレステロールは重要な栄養素)、ビタミンD、カルシウム、繊維、葉酸、ビタミンA、オメガ3、ビタミンE、鉄 ― これらは私たちが現代の工業的食生活から排除してきたものであり、それぞれが脳機能および身体的健康に不可欠。そのうえ、所与のビタミンまたは微量栄養素の不足は単純にサプリメントを所定の量摂取しても改善されないという「バイオアベイラビリティ(生体への利用性/bioavailability)」の現象についての科学者たちの理解は初期段階にある。こういった栄養素を吸収する身体能力は、他の栄養素の存在の有無によって大きく影響される。例えば、健康的な肉をまるごと食べる人々は、追加でビタミンCを全く必要としない傾向がある。レモンとほうれん草を食べると緑葉に含まれる鉄を身体により多く吸収する助けとなる。卵とチーズを一緒に食べるとビタミンDとカルシウムをより多く取り込むことができる。多様性は私たちの体内の複雑さに対応しているのだ。


生物多様性と人間の潜在能力

 私たちはインドを離れ、米国のトウモロコシの里、ミネソタ 州ハートランドにいる。ウィル・ウィンターは獣医であり急進 的だ。特にハートランドのトウモロコシと大豆の作物単一栽 培について話す時は急進的。そして実際そうなのだ。彼は 病気の牛を治療することに辟易としているが、それこそが 獣医師が工業的飼育場や酪農場でやることだ。1 頭ずつ 全ての牛が、挽いた穀物とタンパク質の食糧で病気になっ ているのだから。これらの牛を連れ植林地と雑木林につな がる牧草地で放すと(彼は実際にやっている)、牛たちは 木質のものを食べ始め、それから草を食べ、その後、体調 が良くなることがある。医者は必要ない。ウィンターは、この 現象はインドの場合と同じで、根っこが問題だという。多年 生草や雑木林は下層土に届く深い根を張るため、肥育用 飼料に欠落している栄養素を牛が摂取することを可能に する。本能的な味の好みで牛はこれらのミネラルが必要な ことを知り、これらを求め、そして体調が良くなる。

 これらの栄養素は永年牧草地に放牧された牛の肉を食 べて牛乳を飲む人間に移る。この認識は、グラスフェッド (牧草で育てた)牛の牛肉の需要が急成長する原動力に なっており、この食事の変化の中心は、人間の食事に不足 していることがようやく科学的に認められたオメガ 3 脂肪酸。 これは決定的に不足している。最近の国際会議で、食生 活のオメガ 3 不足を調査している研究者が、世界的なオメガ 3 不足に対して、彼らが宣誓する危機を避けるために 「京都議定書風のアプローチ」を要求したことは、地球温暖 化とまったく同じなりゆきだ。この問題を 30 年以上調査し ている英国の研究者マイケル・クロフォードは、大きくかつ 広範な必須脂肪酸の欠乏からなる脳障害で、私たちは「低 能の人種」となる危険にさらされていると考えている。

 だが、オメガ 3 や炭水化物の問題は要点を見逃している。 マーケッターがどんなことを唱えたとしても、そこには単純 な解決や特効薬、奇跡の微量栄養素は存在しない。多様 性だけがあるのだ。インドの米農家が深く根を張る在来種 を育て、ミネソタ州の農家が牛を永年牧草地で育て、成し 遂げているのは、多様性の増大。言い替えれば、彼らは地 球の本質的な力と複雑性へのつながりと経路を広げてい る。根はミネラルへつながる。肥料は幅広い動物の集積物 を捉え、微生物の生命を促進する土壌を構築。微生物は 土壌や植物、人間の腸の健康を促進する。在来種は長い 年月をかけた知恵と生命力によって作られる遺伝的遺産 につながる。私たちはこの生命の織物に織り込まれるよう に進化しているのだ。

 長い間、農業において生物多様性を増加させることが持 続可能な「自然のイメージのなかの農業」(カンサス州サリ ナのランド研究所のウェス・ジャクソンの言葉を借用)に必 要不可欠だと理解して来た人もいる。しかしまだ、工業的 農業に従事する人々や緑の革命家たちは「たしかに、多 様性は良いが、持続的な農業が世界人口を養えるのか?」 と私たちに挑む。そして、インプット、処理能力、アウトプッ ト、エーカー当たりの収量、ブッシェルあたりのカロリー、一 人当たりのカロリー、といった限られた線形プロセスで農業 を定義し、同様に「養う」を定義し裏で支配をする。

 人間のことは単にカロリーの方程式で解決できない。ウェ ンデル・ベリーがエッセイ「人は何のために?(What Are People For?)」で行っているように、正確に問題を提起する ほうが良い。

 その質問に答えようと形而上学の藪の中で迷子なる必要 はない。私たちが何のために存在するかは定かでないかも しれないが、その目的は(何であれ)十分に発達した頭脳 がなければ、達成できないことは明確。 ベリーの質問への 答えに関して、進化の一番の手がかりは、脳の一意性に気 づくことにかかっている。進化は長きにわたり、私たちに驚 異的な思考力を与えてきた。

 これが、中央アラスカの伝統的な狩猟民族コユーコン族 の人々の言う「動物は私たちの食物。彼らは私たちの思 考。」の意味するところだと思う。

 人間の潜在能力(肉体的に、輝き、エネルギーみなぎる 人間の脳)は、実際、想像を絶するほど複雑な生化学の渦 や氾濫で形成され、発達してきた。私たちの身体と精神は、 生命の力に結びついた織物(深く張った根、多くの枝、動 植物、微生物、その他)を維持することでのみ、潜在能力 を発揮する。生物多様性だ。根は私たちの思考、実際に。

 本当のことを言えば、持続可能な農業で地球の 72 億の 人々を養うことができるかどうかは明らかではない。しかし、 それ無しで私たちの思考と人間性を維持することができな いことは明白だ。


受賞経験のあるジャーナリスト、リチャード・マニングは 30 年 以上自然、政治および農業を取材してきた。「 Against the Grain: How Agriculture Has Hijacked Civilization【穀物に対抗: いかに農業は社会発展を牛耳ってきたか】」の著者で、近著 に「Go Wild【イキイキしよう】」がある。

Hidden Downsides of the Green Revolution

By Richard Manning 

June/July 2014

 

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