在来種の家畜動物は、丈夫で適応力があり肉は良質、さらに遺伝的多様性が高い。これは自家飼育者、消費者のどちらにもメリットだ。
グロスタシャー・オールドスポット種は餌を見つける能力と母性本能の強さが高く評価されている
文:Jeanette Beranger
翻訳:西本 祥子
世界中の農業従事者たちは何百年も前から、幾千種もの家畜動物を生み出してきた。しかし今では、ひと月に 1 種類以上のペースで種が絶滅しており、国連食糧農業機関 (FAO) によれば、全世界の飼い牛、ヤギ、豚、馬、鶏の 20% は絶滅の危機に瀕しているという。なぜこんな事態になったのか。どうすればこれを食い止められるのか。なぜ食い止めねばならないのか。経緯は複雑だが、今行動を起こせば明るい未来が開けるかもしれない。
農家、消費者のどちらにとっても、動物の遺伝的多様性を保つことは非常に重要だ。在来種の家畜動物は、自家飼育する上でメリットが多い。丈夫で、地域への適応力があり、工業型飼育された交配種と比べて成長が遅いので食肉・乳製品などが一般に風味豊かなのだ。本当かどうか、デヴォンシャー種のクロテッド・クリーム、ミュールフット種の甘い豚ハム、あるいはルーアンダックのローストを是非味わってみよう。こういった在来種は畑仕事の担い手でもある。豚は畑を耕し邪魔なものを撤去、牛は運搬、ヤギは不要な植物の繁殖を抑える見張り番だ。飼育環境が過酷で近親交配の弊害が悩みの種、ニッチな市場で勝ち残りたい、といった農業者にとって在来種はもってこい。在来種の繁殖に成功すれば、長期的健康に欠かせない特質を交配で広め、食の安全性を保つことができる。コーニッシュ種が世界中のブロイラー生産の基礎となっているのがその例だ。
丈夫さ以上を求められたロングホーン
農家は役立つ様々な植物や家畜動物をもっと狭い場所で飼ってきた、という歴史がある。世界の豚、鶏、羊、ヤギの種は 7,000 種を超える。様々な条件、風土、気候が影響し合って多様な種が誕生してきた。言い換えれば、特定の風土で何らかの目的(条件)のもとに生み出されたわけで、生まれ育った気候のもとでは旺盛に育つと考えられる。立派に適応できた動物たちは、飼育者からエサをもらう必要はほとんどなかった。
その好例が牛のテキサス・ロングホーン種(Longhorn:32ページの写真参照)。寒さに強いスペイン産牛を原産とし(北アメリカ大陸に植民時代初頭にもたらされ)、数百年かけて生み出された。牧場主は、四季折々の飼料に乏しい環境に耐え、捕食動物も撃退でき、たくましくち農産物ができる牛を必要としていた。年月を経て、外敵に対抗し、密集する草木をかき分けるための独特の角を持つ種が誕生する。この種の牛は、雑木、雑草、サボテンなどを食べるための顎の筋肉を発達させた。水を何日も飲まずに生き延びることもできた。テキサス・ロングホーン種は、過酷な生育環境にもかかわらず、2 才の手前から20 才代まの間、毎年出産できた。こうした牛たちが旨い肉を提供し、何世代にもわたってテキサスの経済・文化を形成してきた。
この 100 年で、ロングホーン種の周囲は一変した。環境適応力で劣る大型牛が飼育されるようになり、ロングホーン種はこの土地のシンボル的存在からノスタルジーの象徴へと変わっていった。大柄で立派な角を持つ牛が産まれるよう、他種との交配が行われたが、ロングホーン種を昔から飼育している人々は、「あれは Longhorn ではなく Wronghorn だ」と嘆いた。交配で産まれた牛の数は、純粋種を圧倒するようになる。Cattlemen’s Texas Longhorn Registry が実施した 2013 年集計では、北米の純粋なテキサス・ロングホーン種は 1,200 頭を割り込みそうだという。この後発種は牧草では育ちにくく、出産時に手がかかるため、自家飼育者は育てたがらない。
大型 + 速成 = 虚弱体質
20 世紀には農業の規模が変化した。工業的農家は、集中飼育施設 (CAFO) で大量の穀物飼料を与えることで食肉処理に適した重量に短期間で育てる効率的飼育法に目を付けた。冷蔵輸送で食肉を安全に速く市場まで届けることが可能になった。穀物飼料で速成飼育された、より大型の食用動物が、商業規模で生産されるようになった。20 世紀初頭には、牛は牧草を食べて育つものだった。が今日では、肉牛はほんの数種、乳製品業界ではほぼホルスタインだけになってしまった。
こうした種の集中は、遺伝的多様性の面で大きな損失となっている。Journal of Dairy Science 誌はアメリカ・ホルスタイン種の調査結果として、現存する全てのホルスタイン牛の実質的先祖は、1960 年代に生まれた 3 頭の牛であり、さらにそれらは、1880 年代に生まれたたった 2 頭の牛に遡れる、と報じた。この遺伝的に深刻な多様性の損失により繁殖力が大幅に下がっている牛が、全米で800 万頭以上に上っている。栄養価の高い穀物飼料で育った乳製品用のホルスタイン牛は、産んだ子牛が飲む量の 3 ~ 4 倍のミルクを出すという不自然な状況となっている。
このように生産性重視の選択を徹底した結果、大型化し肉体的負荷に耐えられない動物たちは、健康面全般を損なうことになった。特に顕著なのが鶏類だ。工業的に飼育された鶏は、体が肥大化しすぎることが多く、足や心臓がその重量に耐えられなくなる。商業用の七面鳥は、胸部が肥大化しすぎた結果、オス鳥が自然に交尾できなくなり、100% 人工授精に頼るようになってしまった。野性なら せいぜい5 ~ 10 キログラム弱なのに、工業的に飼育された七面鳥には 18 キログラムを超えるものもある。ギネス世界記録によると、全米最大の商業用七面鳥は 39 キログラムだという。(鶏の自家飼育法については以下を参照。 「在来種鶏の繁殖 - なぜ孵化場に頼ってはいけないのか」)
食卓に変化が
飼育法は、私たちが口にする食材の味や栄養価にも影響する。牧場で放し飼いされ、時間をかけて育っていた家畜動物が、飼育小屋でとうもろこし・大豆を中心とする配合飼料で育てるために改良された速成の商業用動物にとって代わられている。これら二つの飼育法による味の違いはとても大きい。特に豚。National Pork Boardでは「The Other White Meat」キャンペーンを展開し、商業用の豚肉をアピールしている。工業的に飼育された豚肉の色は薄くてきれいだが、牧場で放し飼いされた豚と比べて、味も薄い。放し飼い豚のほうが商業用豚よりリッチで野性味あふれる味がすると、料理人も消費者も認めている。
穀物配合飼料で育った家畜動物を偏重した結果、肉、卵、乳製品から得られる栄養価も減っている。リチャード・マニング (Richard Manning) は「脂肪と健康:科学を理解する」という記事の中で、工場でトウモロコシと大豆を与えて飼育した動物は、オメガ 6 脂肪酸過多で、オメガ 3 脂肪酸との比率が放し飼いの動物と大きく異なる。この結果、現在の北米の標準的な食事には、健康維持に必要な量の 4 倍のオメガ 6 脂肪酸が含まれている。
勝ち抜く遺伝子
在来種の家畜動物は生産的な農場運営を持続的に行うためのリソースの宝庫だ。一般に寒さに強く、自らエサを探しまわるので、牧場飼育に適している。自家飼育する土地の気候などに最適の品種を選ぶこともできる。北部の降雪地帯で養鶏したい方には、特に寒さに強いシャンテクレール (Chantecler) 種が、冬でも卵をよく産むのでお勧めだ。高温多湿なら、オッサバウ島 (Ossabaw Island) 産の豚が価格もお手ごろ。秋に脂肪をたっぷり蓄えることで、厳しい季節を乗り切る。土壌に生息する寄生虫にお悩みなら、寄生虫にも腐蹄症にも非常に強いガルフコースト (Gulf Coast) 種がある。この羊は、他の品種では生きられないような土地でも繁殖可能だ。
グローバルに温暖化が進む今日、地域に柔軟に適応できる品種は特に必要とされている。FAO の「Voluntary Guidelines to Support the Integration of Genetic Diversity into National Climate Change Adaptation Planning(仮訳:遺伝的多様性をアメリカの気候変動への適応力につなげるためのガイドライン)」は、各国政府が国内の地域に適応する品種の把握に役立つようまとめられている。FAO によれば羊・ヤギの品種の 50% 、牛や馬の 30% が乾燥地域に適応して生育できるらしいが、明文化には至っていない。農場の商業用品種の工業的生産への切り替えは、今なお進んでおり、在来種によって遺伝資源の発見、文書化、保全ができるチャンスは減る一方だ。
拡散する遺伝資源
種の保存行程は複雑で、結果を出しているプロジェクトはみな長期的方法で取り組んでいる。The Livestock Conservancyのミッションはそれを土台としている。絶滅危惧種を絶滅から守るのがその目的だ。ほぼ40 年間におよぶ科学的調査、頭数・血統管理、技術面や販売面での支援、一般向け講座の提供などで信頼を得ている。
保護対策としては、絶滅危惧種の家畜動物を農場で実際に飼育することが重要だ。動物は環境に適応して発達し続ける必要があるが、私たち人間も、純血種をこれ以上失わないよう、重要な遺伝子を守る手段が必要だ。米国では、豚のグロスターシャー・オールド・スポット (Gloucestershire Old Spots) 種は、複数の血統が絶えてしまったため、今後残していくのが困難になっている。が、幸いにも英国ではまだ健在だ。The Livestock Conservancy(仮訳:米国家畜品種保護団体)は 20 年以上もの間、 米国農務省動物遺伝資源プログラム (NAGP: U.S. Department of Agriculture’s National Animal Germplasm Program) と提携している。NAGP では、世界最大規模で家畜動物の遺伝資源を収集し、冷凍保存している。たとえば、The Livestock Conservancy が持つ希少種の遺伝資源、つまり種の遺伝的成り立ちに関する情報を含む生体組織のコレクションなどだ。ここにある遺伝資源が、近親交配や飼育放棄が原因で頭数が減ったと思われる在来種に新たな命を吹き込むことが可能だ。NAGP が遺伝子保存をバックアップしてくれるが、自家飼育者やブリーダーである私たちは、各自の農場で成功例を作ることで、希少種保護につながる大きな貢献ができるのだ。
ジャネット・ベランガーは The Livestock Conservancy のリサーチ・テクニカルプログラムマネジャー。在来種の鶏や馬を愛し、自らノースカロライナ州の自家農場で希少種を飼育している。共著に「An Introduction to Heritage Breeds」。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
Heritage Livestock Breeds: Why They’re Important
By Jeanette Beranger
April/May 2016
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