熟成させたチーズほど、素敵で贅沢で味わいのあるものはありません。ワインと同様、未成熟の若いチーズを美食家を唸らせるまでにするには、時間と適切な管理が必要です。でも自宅で質の良い熟成チーズを作るのに、熟練したアフィヌール(フランス語で、プロのチーズ熟成士)になる必要はありませんし、ハイテクのエージング(熟成)・ルームや、伝統的なチーズ・カーブ [チーズの熟成庫] に出入りする必要もありません。
翻訳:大本 清子
チーズの熟成をフランス人は、アフィナージュと言います。熟成の中心はミルクの保存に過ぎません。私たちの先祖には冷蔵技術がなく、また1年を通したミルクの供給も得られませんでした。熟成チーズはミルクの栄養素を濃縮し、より長期に渡って保存します。作られる場所の天候、微生物、その他の自然条件によって、様々なタイプの熟成チーズに発展しました。私たち現代のチーズの作り手には贅沢にも、外の気候がどんな風であろうと一番美味しいと思えるチーズのタイプに合わせた条件を再現できます。
なんとまあ、そんなに変わってしまって
熟成はチーズを変化させます。熟成前のチーズはその元となるミルクの風味を多く保っています。その一方、熟成チーズは、風味が豊かになり食感も幅が広がります。
チーズ作りには3つの方法があります。リコッタやパニールの様に、ミルクが熱いうちに酸を加える方法、フロマージュ・ブランやシェーブルの様に、酸を生産するバクテリアを加える方法、チェダーやゴーダの様に、バクテリアと凝固剤を加える方法、その中で一番最後の方法が最も複雑なチーズの製造法で、唯一、チーズを熟成させることが可能です。このタイプのチーズは水分の含有量が少なく、培養物のバクテリア、ミルク、レンネット(凝固剤)によって作られた様々な酵素が含まれます。
熟成用のチーズは、バクテリアがラクトース(乳糖)を発酵で乳酸と他の数種の物質に分解する所から始まります。次にチーズを固めるためにレンネット(従来は子牛の胃から抽出していた酵素ですが、今では植物由来のものや合成化合物もあります)が加えられます。その次にチーズから出てくる水を捨て、圧縮して余計な水分を取り去ります。これら比較的、短時間で行われる段階の後、酵素の働きが本格的に始まります。熟成の間、バクテリア、ミルク、レンネットから出た酵素は、乳タンパク質(milk
protain)とそれよりも少ないレベルですが乳脂肪に魔法のような効果を発揮します。少しずつチーズの風味を作り食感を変えながら、酵素はこれら化合物 [乳タンパク質や乳脂肪] を分解していきます。
アフィナージュ(チーズ熟成)とアフィニティ(相性)
チーズ の熟成がうまく続く様にその間、適切な環境を用意し手をかけなくてはいけません。熟成の環境は繊細なバランスを必要とします -
1つには、有益なバクテリアや酵素がタンパク質や脂肪を分解するのを促進し、同時に腐敗性のバクテリアがチーズを腐敗させたり、外見を損なうことを阻止したりするのです。この状況を作る最初の一歩は絶妙の加減で塩を加え、水分量の低いチーズを作ることです。次に望ましい熟成が進むよう、適切な温度、湿度、空気の循環、換気を整えるといった、アフィナージュの環境を作ることです。こう言うと、とても複雑に聞こえると思いますが家庭でも比較的容易にできます。素晴らしいフロマージュ(チーズ)を作るための要素を見ていきましょう。
私の最初の「チーズ・カーブ(チーズの熟成庫)」は、小さなワインクーラー [日本ではワインセラーと言って販売されている]
でした(まだ持っています。今はワインを入れていますが)。ワインや飲料用のクーラーは、基本的に小型で5℃〜15℃に保つ様に設計された独立型の冷蔵庫です。ほとんどのチーズは13℃が熟成に最適なので、この温度範囲は非常に熟成が進みます。ワインクーラーに付いている、引き出し式のボトル用にデザインされたラックはチーズには合わないのですが、ラックは簡単に取り外せるので硬材のボードを同じ溝にはめ込んで、理想的な(そして伝統的に見える)チーズを置く台に作り変えることができます。
2番目の選択肢として冷凍庫がついてない冷蔵庫と、冷蔵庫のプラグを接続するための外付けのサーモスタットを買うことです(冷蔵庫の内臓サーモスタットは、チーズを熟成するための高い温度の設定が十分にできません)。外付けのサーモスタットには冷蔵庫に入れる探針(プローブ)が付いています。サーモスタットはチーズの熟成の温度を保つために必要に応じて冷蔵庫の電源を入れたり止めたりします。なぜ冷凍冷蔵庫を使わないのか?と言うと、冷凍冷蔵庫は冷蔵庫を冷やすのに冷凍庫の空気を冷蔵庫に送り込むからです。必要以上のエネルギーを消費するだけでなく、チーズを乾燥させてしまいます
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乾燥は熟成チーズにとって致命的です。もし適当な冷蔵庫が見つからないなら、箱型の冷凍庫と外付けのサーモスタットでもいいでしょう。でもチーズを取り出しやすいように並べるのが難しいでしょう。縦型の冷凍庫は避けてください。ほとんどの冷凍棚の中には冷却用コイルが入ってます。冷凍温度より暖かい温度に設定すると、湿気が棚の上で水滴になり下の棚にあるチーズの上に滴ります。素晴らしいチーズに対する、もう一つの死の宣告となります。
最後の選択肢として、地階や地下室(セラー)を使うことです。運の良い人は、ほぼ、もしくは一部が地下になったスペースを使うことができるでしょう。もしあなたがそのうちの一人なら一年を通してそこがチーズに最適か、かなり適した温度を保てるかを確認する必要があります。もし保てないなら温度を安定的に保てる、より断熱された空間を作ることはできますか?しかしながら私が地階でチーズを熟成させて分かった一番大きな難点は、そこにチーズがあることを忘れないでおくことでした!アフィナージュには毎日作業が必要ですが、目につかなければ忘れてしまうのです。。。。
。。。この記事にあるレシピは、私の本「基本のチーズ作りを極めよう (Mastering Basic Cheesemaking)」に載っています。このレシピはチーズ作りを始めたばかりの方々のために書きましたが、チーズ作りに必要なものを販売会社から購入する必要があります。これ以外のレシピは前述の本か、より上級向けで科学的な、チェルシー・グリーン・パブリッシング (Chelsea Green
Publishing) から出版されている私の「職人のチーズ作りを極める (Mastering Artisan Cheesemaking)」を読んでください。
チーズを作る気になりましたか? 以下のレシピの1つに挑戦してみましょう。
農家のホイールチーズ
優しいコルビーチーズ
たのしい暮らしをつくるマザーアースニューズ
Make Aged Cheese at Home
By Gianaclis Caldwell
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